名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

ユートロニカのこちら側 (小川哲)

巨大情報企業による実験都市アガスティアリゾート。その街では個人情報――視覚や聴覚、位置情報等全て――を提供して得られる報酬で、平均以上の豊かな生活が保証される。しかし、誰もが羨む彼岸の理想郷から零れ落ちる人々もいた……。苦しみの此岸をさまよい、自由を求める男女が交錯する6つの物語。第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉受賞作、約束された未来の超克を謳うポスト・ディストピア文学。

 先週末の文フリ東京に参加する予定だったんですけど、申し込みしようと思ったらすでに期間外でした。
 来年1月の文フリ京都には参加します。


 『ゲームの王国』『嘘と正典』に続き、小川哲の作品を読むのはこれで3作目。一番気になってる『君のクイズ』も直木賞を取った『地図と拳』もまだ読むことができていないが、まぁいつか読むタイミングが来るでしょう。
 本作の舞台はアガスティア・リゾートという、企業が運営する都市である。住民は都市内でのすべての情報を企業に提供する代わりに、働かなくても十分な金額を手に入れることができる。「企業の陰謀」とかは(どちらかといえば)メインテーマではなく、ユートピアであるはずの都市をめぐる人々を描いた作品である。都市に住み始めてから元気がなくなった男、都市で犯罪を未然に防ごうとする博士、都市にテロを仕掛けようとする男女……。彼らは都市とどう向き合って暮らしていくのか。
 作中にライルという人物が登場する。リゾートで犯罪予防に努めている男だが、サーヴァント(情報管理AI)の指示を疑いもなく受け入れており、まさに都市を代表するような人物である。現代でも、AIが閲覧履歴からおすすめの広告や動画を表示したりするなど、既にAIによって私たちが見たり聞いたりするものが支配されている。今後AIが発達して、私たちの生活と思考はどのように変わっていくのだろうか(なんかそれっぽいこと書いてみようと思ったけどうまく書けないね)。(肇)