名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day (乙一)

The Book 〜jojo's bizarre adventure 4th another day〜

The Book 〜jojo's bizarre adventure 4th another day〜

人が書いたものを読むというのは不自由な行為で、非インタラクティブで一方的なものである。コメント欄等のあるウェブ日記の類ならともかく、本などのメディアにおいて読み手が書き手にメッセージを送るには多大な労力が必要であることが多い。コミュニケーション手段としては欠陥だらけだし、だいいち書き手のほうにしても届けたい人に本当に届いているかどうかすら分からない。


さてジョジョの四部小説である。乙一が「小生日記」で書くよ書いてるよーと言っていたのがおよそ四年前だから、少なくともそのあたりからずっと「四部小説マダー?」「大人は嘘をつきません。ただ、間違いをするだけなのです……」「なんという書く書く詐欺」などのやり取りが延々と繰り返されてきたわけである。そしてついに出版されたのが去年の11月で、聞こえてくる評判は「メタ台詞ひでえ」「康一君のウザさは異常」「やはり ザ・ハンドは つよい な」「なんか地味じゃね?」などなど。
であるから、いまさら僕がネタバレ全開でここに感想を書いてもなにも問題はないだろう。一応二重ハイフンを四つ並べておく。



本のスタンドというとボインゴのトト神。あれの内容が純然たる未来予知だったのに対し、本書のオリジナルスタンド「ザ・ブック」の内容は「本体が産まれてから今までの記憶」だから、まるきり真逆なわけ。で、それをどう攻撃に使うかというと「自分の人生の記録を読ませて感情移入させる」、機能的には強制的にリアルシャドーを引き起こさせるスタンド。……忘れてたけど、確か三部小説のオリジナルスタンドも本タイプで、その能力も「過去の記録を呼び出して戦わせる」という微妙にかぶるというかそれなんて聖杯戦争? むしろ六部のアンダーワールドがそんな感じだったよね。
閑話休題。そんなこんなで主人公君のスタンドが本タイプであり、戦闘の際には書き手と読み手がそこに存在する以上、康一君たちの過剰なメタ台詞が単なるファンサービス以上のなにかでないはずがない。恐らくはメタが目に見えるところ以外にも仕掛けられていて、「くわしくはコミックスを参照してもらいたい」なんて台詞はただ単に今からメタをやるぞという標識でしかない。


それじゃあ乙一は何を書きたかったんだろうという話。終盤の億泰・仗助とのバトルはそれそのまま作者と読者との関係である。バトルの流れからすると要点は二つ。

  1. 何を読ませ、何を読ませないかは作者の権利である。
  2. だが、出されたものを読むかどうかは読者の権利である。

そしてこれを乙一にあてはめるとどーなるかっつー。

  1. 遅くなりました。いろいろ意見はあるだろうけど、俺が書いたものは俺が書いたものだから。
  2. まー読みたくなければ読まなきゃいい。でも、あなた「読んだ」人ですよね……

つまり四部小説を読んだ時点で乙一に負けているのであり、読んだ上でなんか不満をぶーぶー言ってる人は全員自分が負けたことにも気付かず乙一の手の平で踊ってるんだよ! 時空を超え、乙一……! あなたは何度われわれの前に立ちふさがってくるんだー!!
ΩΩΩ<な、なんd(ry


というわけでSFではわりとなじみのエンパス(感情移入能力者のことね)っつー題材に本を介したメタネタ、スタンドバトルの味付けでなんかスゲーさらっと読めるんだけど逆にそこがなんともなあ。深読みしようと思えばいくらでも深読みできるけど、そうしようと思わなければどこまでも朴訥とした語りの上を滑ってく。(片桐)