名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

薔薇マリ13(十文字青)

まず最初に断っておくと、私はこの作品がものすごく好きです。ダントツぶっちぎりではないですが、もっとも好きな作品です。ゆえに、ここからの記述にはたぶんに信者補正がかかっていると思われます。ご了承ください。
発売してから二週間ですので、ネタバレはしない方向でシリーズ全体について書きます。この巻について一言だけコメントしておくと、この終わらせ方をした以上、次の巻には自信があるとみて期待しています。
この作品は青春バトルアクションものです。が、見所はアクションではありません。わりと設定は凝っています。王道的ネットゲームの世界に似ていながらも十二分に独創的です。キャラクターは多くて”設定としては”非常にたっていると思います。ですが、作者独特の思考が全キャラに反映されがちで、独白シーンでは誰が考えているのかわかりません。掘り下げられていない、登場した意義がほとんど見出せないキャラも多数います。ストーリーでも伏線が回収され、設定が生かされていたとは到底言いがたく、投げっぱなしジャーマン状態です。いろいろな点で『おしい!』って感じです。赤点だらけです。ですが、心理描写の重さと世界の広さには点数がつけられません。なぜ私がこんなにもこの作品が好きなのかを考えてみると、それは『基本だけは出来ていて煮詰め方が甘い』からだと思います。小さくまとまった作品ではなく、大きく広がりすぎて書けることが少なくなっているのです。短所だと思われるかも知れませんが、煮詰まっていない=完成してないということは、自分でそこを補うことができるということです。考える土台、材料はしっかりとできているので、一冊の本+自分の妄想>まとまった一冊ということで、考える楽しみがあります。あ、私は完成度の高い作品が嫌いなわけではないです。念のため。このためにライトノベルというジャンルでは考えられないほど読むと疲れます。それも満足感を高める一因であると考えられるようになれば立派な信者でしょう。作者が安心してこの作品にエネルギーを打ち込めるように売れまくって利益を上げたり話題になったりしてほしいですが、知る人ぞ知るコアな作品であって欲しいとも思う複雑な心境です。