名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

老ヴォールの惑星(小川一水)

小川一水読んじゃうぜ4冊目。今回は短(中)編。私は長編と短編なら圧倒的に長編を好む人間だが、今作はなんの問題もなくおもしろかった。私の中では短編というだけで評価があまり伸びない傾向にあるので、ものすごくおもしろかったといってもよい。思い返してみれば、まぁおもしろいなーと思いつつ読んだ短編は乙一キノの旅ぐらいなものではないか?(流石にだけではないと思うが思い出せない)あとは長編の番外編くらいなものだろう。…偏ってんなぁ。でもやっぱ短編は集中力が切れるのがいかんよね。人間のやる気も車と同じでスタートするときにこそ最も消費が激しいだろうから。ということで更新遅れて申し訳ない_(._.)_
今作では400Pほどの分量に4篇の短(中)編が収められている。RPG的な設定で人間の社会性に切り込んだ「ギャルナフカの迷宮」、地球とはまったく違う(ホットジュピター型の)惑星に住む生物を描いた表題作「老ヴォールの惑星」、仮想現実を用いて自分という存在の立脚点を問い直す「幸せになる箱庭」、満ち足りるとはどういうことかに踏み込んだ「漂った男」だ。短編集全体としては"人間を人間足らしめる要素"といったものがテーマになっているのではないかと思う。ただし、意識とか本能とかそういった概念の話ではない。もっと存在が身近に感じられるものを扱っていてわかりやすい。一番気に入った作品は「漂った男」で、読者を刺激し過ぎない程度にいやーな感じの現実と好感の持てる主人公、貴重でいい奴すぎる友人のハートフルストーリーがぐっときた。なぜかかわいらしいイルカのイメージが離れなかった「老ヴォールの惑星」もお気に入り。(まつの)