名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

最後から二番目の真実(フィリップ・K・ディック)感想

最後から二番目の真実 (創元SF文庫)

最後から二番目の真実 (創元SF文庫)

「短編集ばっかで感想とか調子こいてんじゃねえぞこの野郎」とのツッコミが入ったので今回は長編の感想です。

地上で核戦争が起きてしまい、放射能から逃れて地底に避難した人類。来る日も来る日も戦闘用のロボットを作り続ける毎日を過ごす人々。しかし実は地上ではとっくに戦争は終わっていて、一部の特権階級の人々が支配する世界が出来上がっていた、というストーリーです。
本作より前にディックが発表した短編で「地球防衛軍」という作品があるのですが、地底に住む人々は戦争が続いていると思っているが、実はとっくに戦争は終わっていたという世界観がそっくりそのまま本作に使われています。
しかし短編集のほうはロボットたちの手を借りて人類が次のステージに向かうという飛躍の物語のように受け取れますが、本作は人間の上に人間が君臨するという設定にすることで、よりディストピア作品としての側面を強調しているようです。
地下の人々をだますために人形の国家元首を作り、それにしゃべらせるスピーチの内容を考える仕事というのはなんともユニークなように感じます。コンピューターはスピーチの内容を受け取り、それに合わせて人形を本物の人間に見えるように動かすという仕事を担当しています。電子頭脳なんかでは人々の心に届く文章は作ることはできない、ということでしょうか。
「つくりものの現実」というテーマは他の作品よりもわかりやすかったですね。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」と比べるとエンターテイメント性は薄いですけど、テーマ性としては負けず劣らずだと思います。

(ねつ)