名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

高い城の男(フィリップ・K・ディック)感想

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

本書は第二次世界大戦が枢軸国側の勝利に終わった世界を想定した歴史改変SFである。作中では連合国が勝っていたらどうなっていたかという設定の小説が登場し、この作品のタイトルはその小説の作者のことを指している。
作者がこの作品の中で想定した世界はかなり現実味を帯びているように感じられた。とくに作中に登場するドイツ人の多くは、ナチスユダヤ人虐殺などの非人道的な部分を色濃く反映した異常性を抱える人として描かれている。逆に日本人は精神的に高位な存在として描かれており、戦前の日本人の影響を強く受けているように感じられる。枢軸国が勝利をおさめ、そのまま世界が発展していくと仮想すれば、まさに人々はこのような側面を持っているのではないかと思え、作者の想像力の豊かさが感じられた。
ディックがテーマとしてよく用いる現実の崩壊は今作にも色濃く反映されている。別世界に迷い込む登場人物や、最後に明かされる作中に登場する小説の秘密などがその最たる例として挙げられる。
全体として歴史改変作品として非常にリアルで読み応えがあったと思う。ただ登場人物が多すぎて誰が誰だかわかりにくいというのは少し感じられたかな。

(ねつ)