名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

第六ポンプ(パオロ・バチガルピ)

バチガルピといえば『ねじまき少女』にあまりノれなかった悲しい記憶があるのだが、この間新しいレーベルから出版された『第六ポンプ』はかなり面白かった。

第六ポンプ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

第六ポンプ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

名前の覚えにくいこの作家は、本書でいろいろな未来像を描いている。ご時勢なのか、語られる未来はどれも暗い色調のものばかりだ。
例えば害虫が蔓延するなか多国籍企業が耐害虫品種植物を独占している未来。
例えば食品添加物のせいなのか人類総痴呆化が進んでいる未来。
などといった感じで、「希望の未来」「明るい未来」とはほど遠い。舞台となる世界の多くを、閉塞感や諦念が覆っている。いや、本書はただ暗いだけの小説ではない。そういったものに押しつぶされそうになりながらも必死で生き、せめて一矢を報いようとする人間の姿も描かれており、読者の胸を打つものとなっている。


以下印象深かったもの。
「ポケットの中の<法>」
近未来四川省電脳謀略麻婆豆腐小説。いやほんと麻婆豆腐が美味そうなので腹減った。
「フルーテッド・ガールズ」「フルート化された少女」とやらが出てきて、何これと思ってたら、ガチでフルート化されてるのでビビった。キスするとピーとか鳴るの。フルート少女二人が舞台上でくんずほぐれつすることで音楽を奏でる、百合。オチも百合(といったら部室で違うと言われた)。
「第六ポンプ」人類総痴呆化が進むなか、誰も直し方を知らない下水ポンプがぶっ壊れて、処理場職員である主人公がパニクるけど、周りはそもそも問題を理解せずトイレットペーパー投げて遊んでるというひどい話。


あと「砂と灰の人々」はハーラン・エリスン「少年と犬」(『世界の中心で愛を叫んだけもの』収録)とあわせて読みたい作品。(ktgr)