名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

楽園とは探偵の不在なり (斜線堂有紀)

2人以上殺した者は“天使”によって即座に地獄に引き摺り込まれるようになった世界。過去の悲惨な出来事により失意に沈む探偵の青岸焦(あおぎしこがれ)は、「天国が存在するか知りたくないか」という大富豪・常木王凱(つねきおうがい)に誘われ、天使が集まる常世島(とこよじま)を訪れる。そこで青岸を待っていたのは、起きるはずのない連続殺人事件だった。犯人はなぜ、どのように地獄に堕ちずに殺人を続けているのか。最注目の作家による孤島×館の本格ミステリ長篇

 「天使」の出現により、二人以上殺した人は地獄に連れていかれるようになった世界。連続殺人は減ったが、「一人までなら殺してもいいのではないか」「どうせ地獄に落ちるなら一度に何十人も殺したほうがいい」といった風潮が蔓延するようになってしまった。
 主人公である探偵の青岸は、かつては正義感溢れる部下たちと共に事件を解決していったが、その部下たちが自爆テロに巻き込まれ全員命を落としてしまう。青岸以外の登場人物も天使や地獄に関心がある者が多く、てっきり謎が少しくらい明かされるものかと思っていたが、天使とは何か、なぜ出現したのか、なぜ一人殺しただけでは地獄に行かないのか、そもそも天使たちが連れていく場所は本当に地獄なのか、そういった謎は最後まで明かされることはない。まぁ孤島の殺人ごとき(?)で世界の秘密が明かされるわけはないのは当たり前か。
 設定は非常に面白いが、事件の真相やトリックにそこまで目新しいものはなく(一応天使を使ったトリックはある)、ミステリとしては微妙かも。三百ページくらいしかないのに孤島に集められた十一人のうち六人が死ぬ(最終的に犯人も死ぬので七人)ので少々駆け足感もある。あとエピローグのビデオレターもよく分からない。(肇)