名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

未必のマクベス (早瀬耕)

IT系企業Jプロトコルの中井優一は、東南アジアを中心に交通系ICカードの販売に携わっていた。同僚の伴浩輔とともにバンコクでの商談を成功させた優一は、帰国の途上、澳門(マカオ)の娼婦から予言めいた言葉を告げられる――「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」。やがて香港の子会社の代表取締役として出向を命じられた優一だったが、そこには底知れぬ陥穽が待ち受けていた。異色の犯罪小説にして、痛切なる恋愛小説。

 「未必の故意」という法律用語がある。
 " 犯罪事実の発生を積極的には意図しないが、自分の行為からそのような事実が発生するかもしれないと思いながら、あえて実行する場合の心理状態。”(デジタル大辞泉より)
 主人公の中井は、自らの人生がシェイクスピアの『マクベス』をなぞっていることに気付いた後、最初はそれに立ち向かおうとするが、やがて受け入れるようになる。ここが「未必」にかかっているのだろう。だがマクベス夫人(=由記子)の殺害というシナリオを回避するために奔走する。このあたりは『STEINS;GATE』を思い起こさせた。
 序盤は硬派な小説だと思っていたが(そもそもSFだと思っていたがそうじゃなかった)、途中から「高校生の頃から二十年間ずっと片思いしてくれていた天才ヒロイン」を筆頭とするヒロインがたくさん出てきてちょっとだけ困惑したが、600ページ以上ある小説だけあって濃密な作品だったので結構満足。最後のいきなりドンパチするシーンをはじめ、ところどころ雑だなと思うシーンもあったが、まぁ勢い的には良かった。(肇)