名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

新歓用600字レビュー三本!『クローヴィス物語』『図書館大戦争』『百年の孤独』

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会では主な活動の一つとして作品の書評活動を行っています。
そこで書評・レビューとはいかなるものや? という新入生の皆さんの疑問に『図書館大戦争』『クローヴィス物語』『百年の孤独』三作品の600字レビューを掲載することでお答えしようと思います。
また、新入生歓迎用の会誌も配布していますので、そちらもお手に取って頂けると幸いです。

―――――――――

『図書館大戦争』ミハイル・エリザーロフ 北川和美訳 河出書房新社
舞台は現代ロシア。その地には凡庸なソ連時代の作家グロノフが書いた数冊の本が存在した。彼の作品群はすでに忘れられて久しく、現存部数も少なくなっていたが、実は彼の作品を読むことによって人は特殊な力を得ることが出来るのである。その事に気づいた人々は集い、数少ない本を巡ってそれぞれ図書館と呼ばれる勢力を作りあげ、人知れぬロシアの暗部で凄惨な死闘を繰り広げるのだった。
 本作の魅力はなんといっても読書という行為の扱い方だ。読書というものは書を読み、そこから何かしらのモノを得る行為であるが、本作ではそれを拡大解釈して描いている。例えば「忍耐の書」を読めば、痛みを全く感じなくなる(ただし、体へのダメージは通常通り受ける)。また、本を読んだものは他の本を読みたくなり、本へ異常な執着を見せるようになる。このように本来知的行為である読書を薬物接種のような行為として描く点は興味深く、ある意味で的を得ているのかもしれないとクスリともする。また、本を手にするために結成された図書館同士の闘い方もおもしろい。本を傷つけてはいけないため火器厳禁であり、ロシア人達はお手製の武器で殺しあう。時代錯誤で滑稽とも言えるが、直に手をかけて殺す分その残酷さは増している。
 最後に、どこかで聞いたようなタイトルだが別にパクリというわけではない。イカれた現代ロシア文学、その最先端を味わいたい酔狂な御仁には是非とも手にとっていただきたい。
(烏猪)



―――――――――

『クローヴィス物語』サキ 和爾桃子訳 白水uブックス・永遠の本棚
 ねえ、そこの君、意地悪な話は好きかい? おお、好きなのかい! じゃあ、そんなひねくれた君にとっておきの作品を紹介してあげよう。それはこいつ、サキ作『クローヴィス物語』さ! ではまず、作者であるサキの紹介から行こうか。サキっていうのはイギリス人で今からちょうど百年前に戦争でおっちんじまった作家さ。で、そのサキなんだが、チクリと棘のあるブラックユーモアを交えて短編小説を書くのが好きなひねくれた人間だったんだ。そして、本作は彼の毒に満ちた短篇集というわけよ。
こん中には、人語を解するようになったネコがペラペラと人々の秘め事を喋りだし人間関係をぶち壊す話とか、イタチの神様が意地悪な女を懲らしめる話とか、臆病で弱弱しいガキがイースター祭りで突如豹変して荒ぶる話とか、そんな不思議で正しくひねくれてるけども、すかっとする話がたっぷり詰まってる。ジャンル的にはSFにもミステリーにも幻想小説にもきちんと分類できない『奇妙な味』ってやつになるんだが、んなことはどうでもいい(詳しいことは部員に聞いてくれ、それで答えれねぇやつはモグリだ!)。とにかく研ぎ澄まされたナイフのように、鋭い切れ味の持ったブラックユーモアを堪能したいんだったら読むといい。意地悪な話が好きじゃない高潔無比で清廉潔白なお方も没後百周年なんだし読んで見てもいいんじゃないか? 絶対損はさせないさ。(亜鉛中毒者)


―――――――――

百年の孤独ガルシア・マルケス 鼓直訳 新潮社
百年の孤独』それはラテンアメリカより生まれたノーベル文学賞受賞者であるガルシア・マルケスの代表作であり、あまりにも力強く重厚で、そして壮絶な物語の名である。
 百年を通し、マコンドという村と、そこに居住するブエンディア一族の趨勢が一つ一つじっくりと物語られる。その膨大で多岐にわたる話を個々に摘み出すことは出来ない。何故なら全てが繋がっているからだ。しかし、それはこの物語が一つ一つ読み解かなければならないような複雑怪奇な物であることを意味してはいない。むしろ圧倒的な描写力に創られた物語はほんの一部読むだけで読者の意識をその世界に引きこむ。そして全てが繋がっている故に人々はどんとんと読み進めていくことになる。
 また、本作を彩っているものに魔術がある。それはファンタジー作品で見られる特殊な技能としての魔術ではなく、もっと平凡な現象として存在する。ジプシーが伝える妖しい秘術に漂う幽霊、そして一族の未来にまつわる予言、それらがあたかも空気のごとく当たり前に世界へ溶け込んでいるものとして描かれる。この表現方法は読者に今まで感じたことのない不思議な感覚を与える。
 この書を読むと大変疲れる。しかし、それは途方もない情報量と緻密な描写力、そして奔放な物語を味わえることの紛れもない裏返しだ。これは一つの世界を完全に孕んだ物語なのである。(文々)